充填技術センター常任理事  藤井紀之
講演:2008年12月

1.概要

 陥没しやすい空洞の掘削時の状態としては次の点が注目される。 
 (1) 地表からの深度が20m以下である。
 (2) 土被り層の強度が小さい。強い支持層があっても厚さが薄い。
 (3) 空洞の幅がひろく、空洞率が大きい。
 しかし上記の条件に合致していても、空洞は必ず陥没するとはいえない。ある程度時間が経過し、天盤や坑壁の劣化が進んだ部分が崩壊し、陥没が発生する。深度が大きい場合は、空洞が崩潰すると地表沈下を引き起こすが、陥没に至らない場合が大部分である。空洞の劣化を促進し陥没を発生させる重要な要素として、次の3点があげられる。
 ① 地下水面が空洞より下位にある。
 ② 掘削後20年以上経過すると、陥没が発生する頻度が大きくなる。
 ③ 土木工事によって生ずる地盤のゆるみなどが空洞の劣化をもたらす。

2.地表水が空洞に浸透する速度と地下水位の関係

 空洞の天盤や坑壁の劣化をもたらす重要な要素の一つは水である。地下の空洞の場合は、地表からの浸透水の影響が最も大きい。浸透水は、鉱物の粒子間間隙、亀裂、地層の層理面、断層破砕帯など、さまざまな空隙を通じて地表から下方へ移動する。その速度は地盤の透水係数や空隙の有無によって変わるが、空洞の存在も浸透速度を支配する重要な要素である。そして地下水面の水準によって空洞へ浸透する水の速度は著しく異なっている。その違いを図-1に模式的に示す。
 図-1は、地下水面より上にある空洞(左)と、地下水によって水没している空洞(右)に、地表水が浸透する状況を示す。矢印の点線が水の浸透する状況を想定したもので、実線は浸透速度が速い場合である。左の図の場合、空洞に入れば浸透水は自由水になるので、空洞に近くなると水の浸透速度は急激に早くなると考えられる。一方、右の水没空洞の場合は、浸透水は地下水面まで達すると地下水に合流してしまう。地下水の動き方は条件によって異なるが、自由水と違ってきわめて緩慢な場合が多いことは言うまでもない。したがって水の無い空洞の天盤付近には浸透水の水みちが出来やすい。そして年月の経過とともに水みちのまわりの地盤が削られ、空洞の天盤や坑壁表面の剥離がすすみ、劣化をもたらすと考えられる。常温で、pH7前後の地下水が地盤に化学変化をもたらすには長い地質学的時間が必要であり、劣化をもたらす主要な要因は物理的な浸食である可能性が大きい。

 


図-1 地下水面と浸透水の動きの関係を示す模式図

3.陥没に至る過程

 図-2は、水のない空洞で陥没が発生する過程を想定したもので、左側が崩 壊の初期段階、中央が空洞の劣化がすすみ天盤の崩落が進んだ段階、右側がつぼ抜け状に陥没が発生した状況を示す。以下、それぞれの段階について簡単に 説明する。

初期段階
 地下空洞を掘削すると、固い地盤であっても、天盤の上に緩みや亀裂を生ずる。 そして比較的浸透水が集中し易い所では、時間の経過にともなって水みちが形成さ れ、水みちに沿って少しづつ地盤が削られるため、天盤の一部が脆弱になり剥落が始まる。

進行段階
 上記の過程が進行して天盤の崩落が進むと、しばしば空洞の上への移動が見られ る。この段階では地表水が空洞に浸透する速度・量が大きくなり、加速度的に劣化 が進む。

陥没
 被覆層を支えきれなくなった箇所で陥没が発生する。通常はつぼ抜け状に部分的 な陥没を生ずることが多い。これは地表の条件(地形、植生、破砕帯などの地質 条件等)が場所によって異なるためと考えられる。
 一方、水没している空洞は浅くても比較的陥没し難い。しかし空洞水の動きなどにより徐々に劣化が進むことは避けられないし、地震などの影響も受けやすい。2003年の宮城県北部地震で、矢本町を中心として、40年以上経過した亜炭廃坑 跡で、30箇所以上で一斉に陥没が発生した例もある(写真-1)。

 


図-2 水のない空洞で陥没が発生する過程を想定した模式図

 


写真-1 宮城県北部地震で発生した亜炭廃坑の陥没(矢本町提供)

4.土木工事による空洞の劣化

 土木工事が地下空洞の陥没につながった事例は各地で見られた筈であるが、詳細について報告された例はほとんど無い。土木工事は当然地盤の改変を行う ものであり、特に次の3点は地下空洞の陥没に密接な関係がある。  
切土により空洞の土被りが薄くなる。
打撃・振動・掘削などにより、被覆層中に新しい緩みや亀裂を発生させる。
特に樹木の伐採と根引きは、緩みや亀裂の発生に大きな影響がある。

 これらの点を考慮すれば、土木工事によって前述の地表水の浸透が一層激しくなり、空洞の劣化が急速に進むことは必然的な結果と言える。講演では典型的な陥没事例 として、2000年6月に鹿児島県鹿屋市で県道の拡幅工事中に発生した陥没死亡事故 の一端を紹介したが、その後1月29日に鹿児島地裁で原告(被害者)側勝訴の判決 が出た。それをふまえて、土木工事との関係について別に報告を掲載する予定なの で、ここでは割愛する。

5.土木工事による空洞の形成と陥没

 また土木工事によって新たな空洞が形成され陥没につながった例もある。2001年12月30日に明石市大蔵海岸で発生した陥没により幼女が死亡した事故はまだ記憶に新しいが、この事例については明石市のホームページなどで詳細に 報告されているので、そちらを参照して頂きたい。ここでは愛知県のホームページで公表された名古屋東部丘陵線(モノレール)建設工事中の陥没事故(2002 年11月4日)について紹介する。
 この事故は高架線の橋脚工事が終わり、地下40m付近に分布する亜炭空洞の充填工事中に発生し、ボーリング工事車が数m落ち込んだものである(写真-2)。愛知県によれば、モノレールが敷設された県道の整備工事(S40年代)が行われる前は、陥没地の西側は丘陵、東側は埋没谷に堆積した砂質土層からなる沖積平地となっていた。県道整備後、S50年代末に現場近くに横断地下道が建設された。これにより砂質土層のゆるみや地下水流の変化を生じ、空洞が形成された可能性がある。今回のモノレールの橋脚工事の際、土留め工などにより地下水の流れに変化を生じ、 上記空洞の保持がゆるみ崩壊したと考えられるとされている。  
 この地域はもともと起伏に富む丘陵地帯で、前述の県道建設にあたって大規模な 切土・埋土工事が行われた。図-3は、県道建設前の地形図と愛知県のボーリング 結果から作成した陥没地点付近の地質断面図である。旧地形図によれば、陥没地点 付近は丁度谷部にあたり、埋土の厚さも最も厚い。地下水面の水準も浅いので、空洞が形成されたのは今回の建設工事の時である可能性もあるように思われる。

 地下空洞の陥没に関する主な文献

  江崎哲郎(2003)地下空洞と浅所陥没.充てんNo.43,P.1-8. (2003)浅い地下空洞による地盤沈下および浅所陥没について. 日本充てん協会, 66p.              

 


図-3 東部丘陵線道路沿いの地質断面図
(S46年の1/25.000地形図と愛知県ボーリング資料より編集)

 


写真-2 H14年東部丘陵線工事中に発生した陥没