大同工業大学教授
大東憲二
執筆:2008年6月
1.はじめに
地盤沈下は長年にわたり断続的に進行し、その進行は感覚的に感じることは出来ない。過去に広域な地盤沈下が起きた濃尾平野では、地盤沈下が沈静化した現在でも、地盤変動の状況を把握するために、毎年平野全域で水準測量が行われている。しかし、現在行われている水準測量では、測量に時間がかかると共に、測 量データを整理して地盤変動の状況や地盤沈下の要因を特定するまでに多くの時間を要する。また水準測量は年に1回しか行われておらず、短期間での地盤変動を観測するのは難しい。近年では、GPS(全地球測位システム)やリモートセンシング技術の発展により、地盤変動の観測精度が向上し、観測にかかる時間や手間 が少なくなってきている。そのため、これらの技術を使用することで、短期間の地盤変動を観測することが可能となる。
本研究では、広範囲を一度に観測する手法のPSInSAR(恒久的な散乱点を用いた干渉合成開口レーダ)を用いて、濃尾平野を観測した地盤変動結果をGIS(地理情報システム)で整理し、PSInSARで得られた観測結果から濃尾平野の地域的な地盤変動特性を分析した。そして、局所的な地盤変動の要因推定や季節的な地盤変動特性を分析し た。以上の結果から、PSInSARが地盤変動の新しい観測方法と成り得るか評価した。
2.観測範囲と観測期間
観測範囲は濃尾平野の中でも代表的な地盤沈下域である蟹江地域を中心に、名古屋市街部・木曽三川河口部および揖斐川右岸地域を含む625km2である。観測期間は人工衛星JERS-1の観測期間である1992年10月20日から1998年9月15日である1)。
今回のPSInSARによって得られた観測地点(PS点)は、図1に示すように名古屋市などの都市部が広がる東部に多く、田畑が広がる西部には少ない。濃尾平野を観測したPS点は約17000点であり、水準点は約570点である。観測点の数からも平野全域を水準測量より、多く観測していることが分かる。

図1 PSInSARによる濃尾平野の観測結果
3.地盤変動の分析方法
PSInSARから得られた観測結果から、各地域の地盤傾向を分析し、局所的な地盤変動を観測したPS点には、地域の状況などから地盤変動の要因を推定した。
4.地域の地盤傾向
ここでは、図1の四角で囲んだ桑名市周辺の地盤傾向を分析した。図2に示すように、桑名市周辺は住宅や工場などが集中していることもあり、PS点が多く観測されている。地盤傾向を分析するにあたり、図3に示すようにGISの統計機能を利用して、桑名市周辺を観測したPS点のヒストグラムを作成した。観測期間から 得られた累積地盤変動量の平均値は、図3より約0.70cmとなり、隆起傾向を示している。また、ヒストグラムからも累積地盤変動量が0.2cmから2.3cmまでを観測したPS点が多いことから、桑名市周辺は隆起傾向を示していると考えられる。

図2 桑名市周辺のPS点の分布図

図3 桑名市周辺のPS点の統計情報
5.局所的な地盤変動の評価
図2の楕円に囲んだ長島町にあるPS点で、観測期間に10.0cmを超える沈下量が2点(IG787とIG822)も観測されていた。明らかに周辺の地盤変動とは大きく異なっているので、局所的な地盤変動として分析し要因を推定した。PS点周辺を現地調査した結果、長島町周辺は田畑が広がる地域で、PS点が捉えていると思われる場 所は、写真1に示すように周辺から少し盛り上がった地盤の上を観測していたと思われる。この盛り上がった地盤が盛土によって造られた可能性が高いと考えた。したがって、盛土の上に住宅を建てたことで、盛土と住宅の荷重によって、今回観測された沈下量が起きたのではないかと考えた。
そこで、盛土荷重から圧密沈下曲線を作成し、PSInSARの観測結果と比較することで、今回観測された長島町の地盤変動が盛土荷重の影響を受けたものかを分析した。盛土荷重から、月ごとや年ごとの圧密沈下量を求め、求めた圧密沈下量から圧密沈下曲線を作成した。圧密沈下曲線とPS点(IG787とIG822)の地盤変動量 を比較したグラフを図4に示す。
図4に示すように、PS点の地盤変動量と圧密沈下曲線は、ほぼ等しい沈下傾向を示す結果となった。そのため、長島町で観測された地盤変動量は、盛土と住宅の荷重が要因となって起きたものと考えられる。また、地盤変動の要因が盛土荷重であった場合、PSInSARは圧密沈下量を正確に捉えていたため、観測精度が良かっ たものと考えられる。

写真1 長島町周辺の風景

図4 PS点の地盤変動量と圧密沈下
6.季節的な地盤変動の評価
PSInSARは観測衛星の軌道周期によって、年に数回の地盤変動を観測することが可能であるため、季節的な地盤変動を観測できると考えられる。季節的な地盤変動の要因の一つに地下水位の変動がある。そこで、PSInSARから得られた観測結果と地下水位の変動を比較することで、季節的な地盤変動を分析した。
ここでは、飛島地域の季節的な地盤変動について分析した結果を述べる。飛島地域周辺のPS点の地盤変動の平均値と地下水位を比較したグラフを図5に示す。図5に示すように、①と③の期間では地下水位の変動に関係なく地盤変動が激しく示していることが分かる。②の期間では、地下水位の低下に合わせて地盤沈下が起きているなど、地下水位の変動と地盤変動の傾向が似ている。そのため、②の期間の地盤変動は、地下水位の変動の影響を受けていると考えられる。

図5 飛島地域の地盤変動と地下水位
7.まとめ
PSInSARは、広範囲を一度に高い精度で観測出来るという利点があり、その観測結果をGISで整理すると、地域ごとの地盤変動傾向を把握することが可能と考えられる。また、観測点の数においても、水準測量より多く観測できることから、地域の地盤変動傾向を詳細に分析できると考えられる。PSInSARの観測結果を、濃尾平野全域と比較した結果、市街化されている地域ではPS点が多く、田畑が広がる地域ではPS点が少ないことが分かった。局所的な地盤変動については、現地調査を行うことで地盤変動の要因を推定することが出来る。また、今回は盛土荷重による圧密沈下曲線を作成し、PSInSARの観測結果と比較することで、局所的な地盤変 動の要因を更に特定することが出来た。PSInSARの観測結果と地下水位の変動を比較することで、地下水位の変動が地盤変動にも影響していることが分かった。したがって、PSInSARから季節的な地盤変動を分析ることが可能であると考えられる。
以上の結果から、PSInSARは水準測量にはない長所を持っているため、新しい地盤変動の観測方法と成り得ると評価した。
参考文献
1)佐伯茂雄・大東憲二・葛岡成樹・水野敏実:PSInSARとGISを用いた濃尾平野の地盤変動特性評価:http://www. chikatsu-lab.g.dendai.ac.jp/s_forum/pdf/2006/…/11_sahaku.pdf