平成20年5月23日
濃尾平野における災害時生活用水としての地下水利用の提案
大同工業大学工学部都市環境デザイン学科 教授 大 東 憲 二
1.はじめに
地下水は、日本では古くから貴重な水資源として様々な用途に利用されてきた。豊富な地下水に恵まれていた濃尾平野でも、昔から多くの人々によって地下水が利用されてきたが、1960年代前半からの高度経済成長に伴い、鉄鋼産業等を中心に地下水の揚水量が急激に増加した。その結果、平野のほぼ全域に亘って地盤沈下が観測された。近年では、法律や条例での地下水採取規制等により、揚水量は徐々に削減され、低下していた地下水位は上昇してきており、それに伴い地盤沈下も沈静化している。しかし、地下水位が上昇することで、液状化の危険性など新たな問題の発生が懸念されている。本研究では,地下水位の過度の上昇を防ぐために環境用水や災害時生活用水としての地下水の有効利用を考え,三次元地下水流動解析と鉛直一次元圧密沈下解析を用いて将来の地下水利用シナリオに基づいた地下水状態変化及び地盤変動の予測を行うことで,重大な地盤沈下を生じさせない地下水揚水可能量の推定法を提言することを目的としている.
2.地下水の有効利用
地下水は、水温の変化が少なく、井戸の掘削によって容易に利用できるなど様々な利点がある。また、近年では、地下水揚水技術や膜ろ過技術の発達に伴い、安全でおいしい水が簡易に利用できるようになってきている。地下水の有効利用としては、上水道としての利用の他、湧水公園など親水用水としての利用・ヒートアイランド対策・河川や池への放流による水質浄化などの環境用水としての利用等がある。また、災害時の給水水源としても利用価値が高い。阪神・淡路大震災の時には、断水した上下水道に代わって、地震被害の小さかった学校や公園の井戸が、避難所の飲料水や生活用水として利用され、井戸が地震に強いということが認識された。東海地方では、近い将来、大規模な地震が発生することが懸念されており、このような地震発生時には、上下水道の断水による生活用水の不足が予想される。そこで、本研究では、東海地震などの災害を考慮した上で、各自治体の避難所に井戸を設置し、汲み上げた地下水を通常時は上水道や環境用水として利用し、災害時には飲料水や生活用水として利用することを想定し解析を行った。
3.地下水流動解析と圧密沈下解析
避難所に新たな井戸を設置する場合においての地下水状態変化は、松田・大東ら1)の濃尾平野の三次元地下水流動解析を基にして予測した。解析範囲は、図1に示すように、濃尾平野のほぼ全体を含んでいる1164km2である。解析条件は、解析範囲内の避難所に新たな井戸を設置すると想定した。設置する井戸は、通常は環境用水として利用し、災害時は生活用水として利用すると考え、常に稼動していると仮定する。この井戸を平成20年から稼動を開始すると仮定した。解析範囲内には、災害時の各自治体の避難所が合計1663箇所あり、各井戸での揚水量は、名古屋市での災害時の応急給水の目標水量(一人あたりの給水量3L/日・20L/日・100L/日・250L/日(Case1~Case4))を基準とした。各避難所に対しての避難者数(各自治体の人口を避難所数で割った数)に、各Caseにおける揚水量を掛けた量を前年度の揚水量に加えた量とした。また、大東・天谷・向出ら2)の濃尾平野の鉛直一次元圧密沈下解析を基に、図1に示す過去に大きな地盤沈下が観測された十四山観測井付近での各Caseにおける将来の地盤変動の予測を行った。