それではどんな空洞が陥没するのでしょうか
幾つかの条件が考えられます

空洞の深度(土かぶり)

御嵩町の亜炭採掘跡の陥没(1982年)

 亜炭など人工の空洞は、掘った場所や堀り方がそれぞれ異なっています。ですからどんな空洞が陥没し易いかということは一概には言えません。その中で特に大きな影響があるとされているのは、空洞の深度(土かぶり)です。
 もともと50m以上の深い空洞は、地下水で満たされていますので土圧に対する抵抗力が強いのです。また石炭のように広い範囲で総ばらし採掘が行われた場合は、短期間で潰れてしまい地表沈下が引き起こされます。浅い所では残柱式などで採掘しますので、地盤条件などにより天盤が緩み、陥没する場合が多いとされています。
 今までの陥没事例の調査結果では、深度20mまでの浅い空洞がほとんどで、特に15m以内の深さの場合が多いことが知られています。東海地方では宅地造成などの陥没対策工事の場合、土かぶり20mまでの空洞を対象としています。

採掘方法

柱房式(左)と残柱式(右)採掘法の違いの図解と

 地下浅所にある空洞の場合、採掘方法によって陥没発生の危険性は変わります。空洞率が大きければ陥没危険度は大きくなります。左の図は、炭層の一般的な採掘方法を模式的に示したもので、柱房式は薄い炭層を採掘する場合などに採用されます。炭層が薄いと高さ50cm程度の坑道で採掘したようですから、空洞率も一定しなかったと思われます。普通に見られるのは残柱式で、採炭基準では深度30mまでは残柱の幅は3m, 採掘幅は3.3mと決められていました。 この基準通りに採掘しますと、空洞率は75%強となります。しかし実際には立坑の周縁だけを採掘した沈丸式や、掘りやすい所だけを採掘したものもあり、更に閉山が近くなると残柱の外周を削ってしまった例も少なくありません。空洞率は調査してみないと分からないとしか言えません。

地盤の強度(土被り中の支持層の厚さ)

空洞の上に分布する支持層の厚さと陥没との関係を示す模式図 (原図藤井)

強度の大きい支持層の厚さ

 空洞の上に分布する地盤の強度が、陥没の危険性に大きく影響することはよく知られています。強度の大きな地層(支持層)が空洞の上に厚く分布していれば、浅い空洞でもなかなか陥没しません。逆に強度の大きな地層が上にあっても、十分な厚みがなければ比較的早く陥没が起こります。例えば尾張炭田の亜炭層は、固結シルトと呼ばれる強度の大きい粘土質の地層に伴って分布する場合が多いので、固結シルトが上に厚く分布している亜炭空洞は、陥没する危険性は少ないと考えられます。上の図は、強度の大きな支持層が薄い場合(A)と、厚い場合(B)で、どのように崩落や陥没が起こるかを想定して描いた模式図です。
 空洞を掘削しますと、程度の違いはあっても必ず天盤に緩みを生じ亀裂が発生します。支持層が薄い場合には、亀裂がすぐに上の軟弱層に広がり、陥没が起こります。しかし支持層が厚い場合には、上の軟弱層まで亀裂が広がるのに時間がかかりますから、陥没が起こり難いと考えられます。ただ支持層の厚みがどれくらいあればよいかというのは、土質工学でもなかなか難しい問題です。関心をお持ちの方は次の文献を参照して下さい。

岩田 淳,1998, 宅地造成開発に伴う亜炭採掘跡地の陥没危険度評価.「充てん」第32号

川本先生,2003, 浅い地下空洞による地盤沈下および浅所陥没について. 日本充てん協会刊