物理探査の役割

 既に述べたように、人工の地下空洞調査の基本はボーリングです。しかし広い調査対象地域では、事前調査段階で実施可能なボーリング数は限られています。1本のボーリングでは、1地点の地質と空洞の有無しか分かりません。物理探査は、地下における物性値の異常から空洞が分布する可能性を探知しようとするもので、平面的な広がりをもつ地域を対象としています。異常が何を示すのかはボーリングで調べなければ分かりませんが、空洞調査での物理探査の役割は、調査対象範囲をしぼりこみ、効率的なボーリング調査を実施するために欠かせないものと言えましょう。
 空洞調査のための物理探査については多くの文献があります。ここではその一部をあげました。詳細についてはこれらの文献を参照して下さい。

日本充てん協会編,1995, 空洞調査マニュアル
阿蘇弘生, 2001, 物理探査法を主体とした空洞調査について, 「充てん」41号
稲崎富士,2004, 統合物理探査による亜炭採掘空洞の把握, 「充てん」46号
近藤達敏, 2006, 物理探査結果の解釈と利用に関する問題点と提案, 「充てん」49号

空洞調査に使われる物理探査法

 空洞調査には多くの物理探査手法が使われており、地震探査・電気探査・電磁法探査・微重力探査・レーダー探査など、それぞれに特徴と短所があります。東海地方の空洞調査では、このなかで電気探査と微重力探査が比較的多く使用されました。最近実施された長久手町長湫南部の調査でも、電気探査(比抵抗法・IP法)と微重力探査が併用されています(舟橋, 2006, 「充てん」48号)。

比抵抗法

電気探査(電極の配置)
(玉野総合コンサルタント提供)

 比抵抗法は、大地に直流電流を電極から流し、それにより生じた電位を電位電極で測定し、これにより地下の比抵抗分布を求めて地質構造を推定する方法です。電極配置にも幾つかの方法があり、測線の長さや電極間隔などを変えて探査深度内の見かけの比抵抗値を測定し、解析を加えて真の比抵抗を求めます。
 比抵抗分布に大きな影響を与えるのは地層の空隙とそこに含まれる鉱物です。砂・礫層などは土粒子間の空隙が大きいため高い比抵抗値を示します。空気の比抵抗値は非常に高いので、多くの地下壕のように空洞に水がなければ、その部分は高い比抵抗値を示します。
 しかし空隙が水で満たされていれば比抵抗値は低くなります。純粋な水は電気を通しませんが、地中の水には周りの鉱物が溶け込んでいるため良導体となり、低い比抵抗値を示します。しかし亜炭空洞の場合水没しているものが多く、水を含んでいる周りの地層との比抵抗値の違いは大変微妙です。ですから比抵抗法で亜炭空洞を検知するのは決して容易ではありませんが、近年の計測機器や解析技術の発達により、かなりの程度まで可能になっています。

微重力探査

電気探査装置(直流法)
(空洞調査マニュアルより)

 重力探査は地下の岩石の密度の大小による重力場の異常から、地質構造を推定する手法です。地下に空洞があればその部分の密度が小さくなりますから、その僅かな重力差を測定することが空洞探査の手がかりになると考えられました。
 微重力探査は5μgal程度までの微少な重力異常を捉える方法です。測点の間隔は一定していませんが、空洞の影響を捉えるには間隔10m以下のメッシュ状に測点を設定して測定を行い、さらに測定点の標高や水平位置を高い精度で測定します。重力測定結果は、地形補正など必要な補正を行い、その結果を等重力線図で現します。
 下左の図は測定結果の解析図で、相対的に重力値が低い谷状、盆地状の部分(ハッチで示す)が、空洞が分布する可能性があるとされた所です。また下右の図は、充填前と充填後で重力値がどれくらい変わったかを示す断面図で、実線が充填前、点線が充填後の重力値を示します。
 微重力探査の特徴は、空洞の分布が推定される区域を面的に把握し、また充填後に再度測定を行うことにより、充填効果を評価するのに役に立つという点にあるでしょう。

微重力探査解析図(ハッチは低重力部)
(岩田,2004;空洞調査マニュアル補遺より)
微重力断面図(充填施工前後の重力差を示す)