PSInSARを用いた濃尾平野の地域的および季節的地盤変動特性の評価
大同工業大学 工学部都市環境デザイン学科 教授 大 東 憲 二
(現在:大同大学 情報学部総合情報学科)
1.はじめに
地盤沈下は長年にわたり断続的に進行し、その進行は感覚的に感じることは出来ない。過去に広域な地盤沈下が起きた濃尾平野では、地盤沈下が沈静化した現在でも、地盤変動の状況を把握するために、毎年平野全域で水準測量が行われている。しかし、現在行われている水準測量では、測量に時間がかかると共に、測 量データを整理して地盤変動の状況や地盤沈下の要因を特定するまでに多くの時間を要する。また水準測量は年に1回しか行われておらず、短期間での地盤変動を観測するのは難しい。近年では、GPS(全地球測位システム)やリモートセンシング技術の発展により、地盤変動の観測精度が向上し、観測にかかる時間や手間 が少なくなってきている。そのため、これらの技術を使用することで、短期間の地盤変動を観測することが可能となる。
本研究では、広範囲を一度に観測する手法のPSInSAR(恒久的な散乱点を用いた干渉合成開口レーダ)を用いて、濃尾平野を観測した地盤変動結果をGIS(地理情報システム)で整理し、PSInSARで得られた観測結果から濃尾平野の地域的な地盤変動特性を分析した。そして、局所的な地盤変動の要因推定や季節的な地盤変動特性を分析し た。以上の結果から、PSInSARが地盤変動の新しい観測方法と成り得るか評価した。
2.観測範囲と観測期間
観測範囲は濃尾平野の中でも代表的な地盤沈下域である蟹江地域を中心に、名古屋市街部・木曽三川河口部および揖斐川右岸地域を含む625km2である。観測期間は人工衛星JERS-1の観測期間である1992年10月20日から1998年9月15日である1)。
今回のPSInSARによって得られた観測地点(PS点)は、図-1に示すように名古屋市などの都市部が広がる東部に多く、田畑が広がる西部には少ない。濃尾平野を観測したPS点は約17000点であり、水準点は約570点である。観測点の数からも平野全域を水準測量より、多く観測していることが分かる。
3.地盤変動の分析方法
PSInSARから得られた観測結果から、各地域の地盤傾向を分析し、局所的な地盤変動を観測したPS点には、地域の状況などから地盤変動の要因を推定した。
4.地域の地盤傾向
ここでは、図-1の四角で囲んだ桑名市周辺の地盤傾向を分析した。図-2に示すように、桑名市周辺は住宅や工場などが集中していることもあり、PS点が多く観測されている。地盤傾向を分析するにあたり、図-3に示すようにGISの統計機能を利用して、桑名市周辺を観測したPS点のヒストグラムを作成した。観測期間から 得られた累積地盤変動量の平均値は、図-3より約0.70cmとなり、隆起傾向を示している。また、ヒストグラムからも累積地盤変動量が0.2cmから2.3cmまでを観測したPS点が多いことから、桑名市周辺は隆起傾向を示していると考えられる。