3.陥没に至る過程

図-2 水のない空洞で陥没が発生する過程を想定した模式図

 図-2は、水のない空洞で陥没が発生する過程を想定したもので、左側が崩 壊の初期段階、中央が空洞の劣化がすすみ天盤の崩落が進んだ段階、右側がつ ぼ抜け状に陥没が発生した状況を示す。以下、それぞれの段階について簡単に 説明する。
初期段階
 地下空洞を掘削すると、固い地盤であっても、天盤の上に緩みや亀裂を生ずる。 そして比較的浸透水が集中し易い所では、時間の経過にともなって水みちが形成さ れ、水みちに沿って少しづつ地盤が削られるため、天盤の一部が脆弱になり剥落が 始まる。
進行段階
 上記の過程が進行して天盤の崩落が進むと、しばしば空洞の上への移動が見られ る。この段階では地表水が空洞に浸透する速度・量が大きくなり、加速度的に劣化 が進む。

写真-1
 宮城県北部地震で発生した亜炭廃坑の陥没(矢本町提供)

陥没
 被覆層を支えきれなくなった箇所で陥没が発生する。通常はつぼ抜け状に部分的 な陥没を生ずることが多い。これは地表の条件(地形、植生、破砕帯などの地質 条件等)が場所によって異なるためと考えられる。  一方、水没している空洞は浅くても比較的陥没し難い。しかし空洞水の動きなど により徐々に劣化が進むことは避けられないし、地震などの影響も受けやすい。 2003年の宮城県北部地震で、矢本町を中心として、40年以上経過した亜炭廃坑 跡で、30箇所以上で一斉に陥没が発生した例もある(写真-1)。

4.土木工事による空洞の劣化

 土木工事が地下空洞の陥没につながった事例は各地で見られた筈であるが、 詳細について報告された例はほとんど無い。土木工事は当然地盤の改変を行う ものであり、特に次の3点は地下空洞の陥没に密接な関係がある。  
切土により空洞の土被りが薄くなる。
打撃・振動・掘削などにより、被覆層中に新しい緩みや亀裂を発生させる。
特に樹木の伐採と根引きは、緩みや亀裂の発生に大きな影響がある。

これらの点を考慮すれば、土木工事によって前述の地表水の浸透が一層激しくなり、 空洞の劣化が急速に進むことは必然的な結果と言える。講演では典型的な陥没事例 として、2000年6月に鹿児島県鹿屋市で県道の拡幅工事中に発生した陥没死亡事故 の一端を紹介したが、その後1月29日に鹿児島地裁で原告(被害者)側勝訴の判決 が出た。それをふまえて、土木工事との関係について別に報告を掲載する予定なの で、ここでは割愛する。

5.土木工事による空洞の形成と陥没

 また土木工事によって新たな空洞が形成され陥没につながった例もある。 2001年12月30日に明石市大蔵海岸で発生した陥没により幼女が死亡した事故は まだ記憶に新しいが、この事例については明石市のホームページなどで詳細に 報告されているので、そちらを参照して頂きたい。こでは愛知県のホームペー ジで公表された名古屋東部丘陵線(モノレール)建設工事中の陥没事故(2002 年11月4日)について紹介する

この事故は高架線の橋脚工事が終わり、地下40m付近に分布する亜炭空洞の充填 工事中に発生し、ボーリング工事車が数m落ち込んだものである(写真-2)。 愛知県によれば、モノレールが敷設された県道の整備工事(S40年代)が行われる 前は、陥没地の西側は丘陵、東側は埋没谷に堆積した砂質土層からなる沖積平地と なっていた。県道整備後、S50年代末に現場近くに横断地下道が建設された。これ により砂質土層のゆるみや地下水流の変化を生じ、空洞が形成された可能性がある。 今回のモノレールの橋脚工事の際、土留め工などにより地下水の流れに変化を生じ、 上記空洞の保持がゆるみ崩壊したと考えられるとされている。  この地域はもともと起伏に富む丘陵地帯で、前述の県道建設にあたって大規模な 切土・埋土工事が行われた。図-3は、県道建設前の地形図と愛知県のボーリング 結果から作成した陥没地点付近の地質断面図である。旧地形図によれば、陥没地点 付近は丁度谷部にあたり、埋土の厚さも最も厚い。地下水面の水準も浅いので、空 洞が形成されたのは今回の建設工事の時である可能性もあるように思われる。 地下空洞の陥没に関する主な文献 江崎哲郎(2003)地下空洞と浅所陥没.充てんNo.43,P.1-8. (2003)浅い地下空洞による地盤沈下および浅所陥没について. 日本充てん協会, 66p.              (2008年2月記)

図-3 東部丘陵線道路沿いの地質断面図
(S46年の1/25.000地形図と愛知県ボーリング資料より編集)
写真-2 H14年東部丘陵線工事中に発生した陥没