6) 2005年のアイデア
●オレンジ成分(リモネン)乳化液に食塩を配合してみると洗浄力が増すことを発見した。
 2005年度は、洗浄液をこれまでの合成洗剤から天然素材のものに代替する試みを行なうことにした。複数の市販の天然素材の洗浄剤を用いて,予備実験を行ったうえで,オレンジ洗浄剤(オレンジの皮に含まれるオイルを主成分とする洗浄剤)がもっとも洗浄力が大きかった。さらに試行錯誤を行っているうちに偶然,食塩を原液に混入したところ飛躍的に洗浄力が向上することを確認した。写真2005-1のAが食塩添加、Bは無添加の場合であり、その差は一目瞭然である。さらにリモネン乳化液を土中で使用した場合の油の乳化状態を保持する実験を行ったが、回収部分まで移動する時に土中の水と接触すると乳化した汚染油が原液の状態に戻るという問題があることが判明した。  

写真2005-1オレンジ洗浄剤に食塩を加えた効果
写真2006-1 エンジンオイルをサラダ油で押し流す実験
「無害オイルによる汚染オイルのオイルフェンス」

7) 2006年のアイデア
●エンジンオイルのような鉱物油が、サラダ油などの植物油と混ざることを偶然に発見。地盤内では同じ流体フェーズ(相)となり、植物油で押流すことができるのではないかという浄化実験。
 写真2006-1のように、砂利を充てんした土槽で、地下水面上にあるエンジンオイルをサラダ油で押し流す実験を行った。3枚目の写真は上から油を投与してから約45分後の様子である。サラダ油とエンジンオイルが溶け合い同じフェーズとなり、水面上を押し流されて左の丸い容器に排出されていくことによりきれいになっていく様子が見て取れる。4枚目の写真では、地下水面上に少しサラダ油が残っているだけであり、地下水を汚染することなく、エンジンオイルを回収することに成功した。この技術は、「無害オイルによる汚染オイルのオイルフェンス」として、あたかも矢板のように汚染現場の最外周部に施工することで汚染の拡大を防ぎつつ浄化ができるのではないかと考えられた。
●サラダ油などの植物油で地中内容器を作り、この中の汚染油を界面活性剤で浄化する実験。
上記のオイルフェンスという発想を活用し、汚染ゾーンの周りに凹型にサラダ油を注入して、あたかも地中にサラダ油の容器を作成し、その容器に界面活性剤を注ぎ込んで汚染の下から吸引回収する実験を行った。実験は成功したが、地盤内に立方体の容器を作る手間を考えると実現性に乏しい。
8) 2007年のアイデア
●使用済みのてんぷら油を圧入し浄化の時間短縮を試みた実験
 2007年度からはリサイクルのことも意識し、植物油に代えて使用済みのてんぷら油を使用して研究を行った。ここで問題になったのはやはり機械油に対する浸透性の悪さである。この問題を解決するために、地中に埋設した複数のノズルから天ぷら油を圧入して機械油を部分貫入井戸まで押し出すための実験、水位勾配のある場に天ぷら油を流す実験、天ぷら油にリモネンを混合した場合の効果に関する実験などを行ったが、それぞれに難点がありよい成果は得られなかった。

9) 2008年12月7日のアイデア
●使用済み天ぷら油と界面活性剤で油を挟み撃ちにして流す併用法の浄化実験
 そこで,図2008-1に示す植物油と界面活性剤の併用法を考案した.まず,上方より植物油を投与する.その後,地下水面下より界面活性剤を流すことで,植物油の下面の機械油を乳化させて井戸まで運ぶのである.この方法のポイントは,植物油の先行投入により空気~水の毛管上昇帯が存在しなくなるため,従来問題であった乳化液の吸い上がりがないことである.この方法について,小型卓上2次元土槽で簡易的に実験を行った結果が写真2008-1である.粒径1.0mmのガラスビーズを充填した土槽の下から3分の1をエンジンオイルで汚染した初期状態に,上方から植物油を先行投与し,土槽の左下端から生分解性の界面活性剤を送液した.写真2008-1は実験開始から1時間後の様子である.簡易実験であるので,厳密な考察はできないものの,図2008-1に近い浄化の進行状況が確認でき,順調に実験は終了した.しかし天ぷら油が横に進む速度に限界があり、実際に使用するには問題を残した。

図2008-1 植物油と界面活性剤を併用した浄化法
写真2008-1 左図の浄化法の土槽実験
図2008-2 地盤改良薬液注入を併用するアイデア

●地盤改良薬液注入剤で汚染部分以外を固化し、効率よく油を吸引回収する浄化実験。
 2008年度から汚染の区域外流出を防止する技術の検討も開始した。ある会社のご厚意により地盤改良薬液注入剤としてよく用いられる水ガラスと硬化剤を提供していただき、これを用いて図2008-2のように汚染部分以外を固化してしまえば,界面活性剤で効率よく油を吸引回収することができるのではというアイデアが浮かんだ。実験の結果、浄化範囲が限定されたことで浄化効率は著しく上昇したが、固化部分に生じた亀裂に乳化した機械油が吸い上げられてしまうことが判明し、問題の解決には至らなかった。

3.現時点でのもっとも実用的な浄化のアイデアは

 ここまでの実験で、天ぷら油・リモネン・泡といった方法と比較して、やはり界面活性剤水溶液を浸透させて回収するのが良いという結論に至った。また、界面活性剤水溶液の使い方によってどのような失敗が起こるかも分かってきた。これを図2008-3にまとめた。

図2008-3 界面活性剤を用いた浄化法での失敗とその原因
写真2008-2毛管上昇ウエルポイント法の実験

 これに対し、現時点で最も実用的であると思われるのが、写真2008-2の方法、「毛管上昇ウェルポイント」である。これは乳化油の吸いあがり特性をむしろ利用して、毛管帯中でウェルポイント回収を行うことで回収を促進するアイデアである。この方法では飽和帯に浸透した界面活性剤が油を下から乳化させるとともに、上方から比較的少量の界面活性剤を散布することで効率よく回収ができることが実験から確認できた。この回収方法は既存の土壌ガス吸引や真空圧密工法での表面被覆による吸引効率アップのノウハウの応用も期待される。現在、棚橋研究室はこの「毛管上昇ウェルポイント」に関する実験を推進中である。

参考文献

1) Kenji Daito, Hideyuki Tanahashi, and Shuji Miyazawa :Development of in-situ non-excavating purification technique for oil polluted ground using surfactants.  シンポジウム・日本とEU諸国における油汚染の現状と対策2005,pp.129-137,2005.
2) 梶田真一・棚橋秀行・大東憲二:油汚染地盤の原位置非掘削浄化技術に関する基礎実験、第50回地盤工学シンポジウム 平成17年度論文集 pp.49~56.2005.
3)河合輝也・亀井大・川口博史・棚橋秀行:植物性油を用いた機械油汚染地盤の浄化技術第43回地盤工学研究発表会講演集, pp.2103~2104, 2008.
4)棚橋秀行・大東憲二:機械油汚染地盤の浄化技術開発に関する室内土槽実験、第20回中部地盤工学シンポジウム論文集,pp.49~56,2008.