冨士開発株式会社 阿部暢夫
講演:2008年12月
1.工事概要と特に配慮した点
本事例は、名古屋市東郊の住宅地で、亜炭採掘跡の空洞及び立坑跡が起因と見られる陥没が発生した事から、空洞充填工事を実施し、将来の更なる大規模陥没等の事故を未然に防ぎ、地盤の安定化を計る事を目的とし実施した。
以前近隣では充填工事が行われたが、陥没が発生した付近は、稼行亜炭層が深度20m以上の深いところに分布するため充填地区対象外であった。しかし激しい降雨の後、擁壁の傍に陥没箇所が発見され、その対応が早急に必要とされたため、まずその原因調査を行なった。
今回の充填工事は、既存構造物直下を対象とするため、工事の影響を最小限に抑えるために、動態観測などの計測により充填管理を行なったこと、また材料にキラ泥水を使用し一般のグラウト設備を採用したことが特色とされる。
2.予備調査結果
2-1 陥没状況の観察
陥没は、下の写真に示すように擁壁の基礎部分に発見された。地表部での大きさは幅0.5m長さ1.0m深さ0.5mと小規模なものであったが、擁壁基礎を通過し家屋の直下まで及んでいた。その状況を図-1に、既に充填工事が行われた区域との位置関係を図-2に示した。

写真-1 擁壁中央部の陥没状況

写真-2 陥没部の拡大写真

図-1 観察結果を模式的に示した断面図
(図-2によれば、亜炭層は深度約25mの位置にあり、
採炭廃坑よりは立坑に関係した陥没である可能性が大きいと判断された)

図-2 陥没地点と亜炭層の地下等高線
(亜炭層は南西に傾斜していることが分かる)
2-2 既存資料の検討
既存資料によると採炭された亜炭層は深度25m付近に分布している。また立坑(赤点位置)は戦中・戦後の航空写真によると数多く点在し、今回陥没位置の近隣にも認められる。この地区は亜炭層までの土被りが深度15m以上の区域に当るため、以前の充填工事の対象範囲となっていなかった。
地層は丘陵地を構成する第三紀層の地盤が地表付近より分布している。地層の走向はNW-SEで傾斜角はSW方向に9度である。
3.調査結果と考察
3-1 ボーリング結果
まず標準貫入試験併用のボーリング調査を陥没付近で実施した。ボーリング結果によると、地層は第三紀層の比較的良くしまった砂質土(N値20~40)が地表より深度19m付近まで分布し、その下位にN値50以上の固結粘性土及び亜炭が深度25m付近まで分布している。空洞は亜炭層下部に確認された。高さ約1.0m、空洞堆積土砂が30cmで、空洞内は水で満たされていた(図―3)。
3-2 空洞発生状況の推定
柱状図に示すように、空洞上部の土質は非常に安定した状態で、緩みなどの存在は無くボーリング地点では陥没の影響は認められていない。また、既存資料の空中写真判読による立坑位置は陥没部分よりやや南西側に存在するものと推定される。
この陥没の原因は、長年の間に、立坑閉塞のために埋め立てた土砂が空洞内に押し出され、立坑部分の上部に空隙が生じ、地表部まで空洞が上がってきたものと推察される。図―4に陥没発生状況を推定した模式図を示す。
対策工法としては、立坑周りの空洞部分を充填し、将来、立坑部の土砂が流出しないようにすることが、地盤を安定化させるポイントとなると考えられた。

図-3 ボーリング柱状図

図-4 陥没発生状況の推定図
3-3 空洞状況と必要充填量の推定
空洞はボーリング結果で示すように高さ1m程度を有する完全空洞であり、以前の充填工事の影響も受けておらず、比較的広く分布しているものと推定された。
充填必要量の推定は非常に困難であるが、立坑位置の周辺を対象に、おおよその範囲を想定した。また近隣で以前行なった実績より残柱式で採炭されていると考え、その空洞率・ロス率を用い充填量を推定した。
亜炭坑空洞部分の計画充填量は、
V=対象面積×空洞高さ×空洞率×ロス率
=370㎡×1.00m×70%×1.2≒310m3
また、立坑内の充填量は立坑上部に存在すると考えられる空隙部分の量だけと推定され、それほど多いものではないものと考えられた。なお、陥没発生直後に緊急対策として砂を埋め戻していることから、立坑部分の充填量は数立米程度のものと推定された。
4.対策工法
4-1 材料と配合
充填材は充填量が500m3以下と少なく予想されたため、プラント規模を考慮しキラ泥水を主剤とした充填材を計画した。
その配合及び管理目標値は事前の材料配合試験結果により以下を基準とした。


図-5 充填材の製造フロー
4-2 設備
1)プラント
対象範囲は400m2程度と小規模のため小型プラントを用いた小規模充填工法を計画した。プラントは充填材をグラウトミキサーで練り上げ、モルタルポンプで圧送する小規模プラントを使用した。
2)充填配管工
配管はφ50mm鋼管及びフレキシブルパイプを用い道路部においては交通に支障のないよう側溝に設置した。配管延長は充填孔(L=10m)到達孔(L=48m)の計58mである。


図-6 プラント平面図

図-7 配管図
5.充填施工
5-1 充填孔の設置
充填孔の掘削にはスピンドル型ロータリー式ボーリング機械を使用し、実際に充填材を注入する充填孔と充填材動向監視及び充填中における圧(エアー)抜き孔の役割を持つ到達孔の2孔を設置した(図-8)。なお、事前に行なった調査ボーリング孔は観測孔として利用した。それぞれの掘削孔の位置関係を図-8に示した。孔径はφ86m/m、掘削深度25.00m~26.00mで、φ50m/m塩ビパイプを充填管として設置した。削孔で判明した空洞状況を下に示す。

図-8 充填工事概念図

5-2 連続性調査工
実際に充填材を注入する充填孔と、充填中における圧(エアー)抜き孔の役割を持つ到達孔、そして充填材の動向監視に使用する観測孔との間に繋がりがある事により、各孔が役割を果たし、計画通りの充填工事が施工できる。連続性が無い場合には、充填計画に支障をきたす事が考えられるため、連続性調査を実施した。
a)調査方法
実施方法としては、充填孔より連続して注水を行い一定間隔(5分間隔)にて到達孔・観測高の水位を測定しその変位(上昇高)を確認する。試験時間は給水等の都合上30分間とし、注水速度は6.0m3/h(最速)とした。(総試験注水量3.0m3)
b)調査結果
連続性調査水位変動グラフに示すとおりであり、時間経過(注水量の増加) と共に、各孔にて水位が上昇している状況が確認されている。水位の上昇が少ない原因は、古洞(空洞)の規模に対して注水量が少ないためと考えられる。しかし、注水に呼応するように水位が上昇している状況が確認されている事を総合的に考慮すると、充填孔・到達孔および観測孔相互の間に連続性があると判断される。

図-9 連続性調査測定結果

図-10 充填孔と観測孔での充填高の変化
5-3 充填高測定
充填孔における充填材の高さ変化(青線)は、充填と共に徐々に上昇し、8月30日の夕刻には空洞天端より2m程度上昇し充填を完了した。翌日の8月31日に充填工を到達孔に移動した後もさらに約2.5m上昇し、翌日以降は充填材の上昇は認められず、固結化したものと考えられる。
観測孔における充填材の高さ変化は、充填と共に徐々に上昇し8月30日に充填が完了した時点で急激に上昇したが、その後はほとんど変化せず、充填材は固結したものと考えられる。
到達孔における充填高の変化は充填初日より5日間は変化無く、6日後より充填管完了時まで徐々に上昇している。充填孔での充填完了後到達孔での充填に移り、9月7日に完了した。(図-10)。
5-4 充填完了の確認
今回はボーリング孔が少ないため、充填完了の確認には特に慎重を期した。図ー11に完了確認の手順を示した。

図-11 充填完了の確認手順
5-5 品質管理試験と環境管理
a)ブリージング測定
ブリージングとは、セメントを用いる材料が固化する時に分離した水が表面に浮きでてくる現象である。充填材のブリージング測定は、充填時の午前・午後の2回において実施している。今回は、すべての充填材においてブリージング率0%であり、きわめて良質であったといえる。
b)一軸圧縮試験
一軸圧縮試験は充填時における充填材強度を管理する目的で実施したもので、1週強度(σ7)を1日午前、午後で1回ずつ、4週強度を充填前期、中期、後期の3回行なった。目標強度は充填協会の充填施工マニュアルに従い4週強度で50kN/m2以上とした。充填材の一軸圧縮試験の充填前期、中期、後期の3回行なった1週強度と4週強度の関係より日々の1週強度を4週強度に換算するとすべて目標強度に達しており、良質な充填材であったと判断される(表-5)。
c)水準測量など
住宅地での工事であったため、周囲の地盤・構造物への影響を管理する目的で、水準測量・傾斜計による動態観測を継続実施した。その結果、充填工事による環境への影響はほとんどなかったといえる。一例として水準測量の結果を図-12に示した。
表-5 1週後と4週後の一軸圧縮強度の比較


図-12 充填時の水準測量結果
6.充填結果と評価
表-6に示すように、合計充填量は約450m3で計画量(310m3)の1.5倍となった。これは到達孔で確認した空洞高が1.3mで、当初の予想より大きかったこと、空洞の傾斜の関係で到達孔での充填量が増加したことによる。ボーリング孔僅か3本で、いずれも空洞を捕捉できたことが、本工事の成功に結びついたと考えられる。
表-6 充填孔と到達孔での充填量
