棚橋秀行准教授

大同工業大学 都市環境デザイン学科 准教授 棚橋秀行
講演:2009年12月

1.はじめに

 多くの機械工場で用いられる機械油などの油の地盤汚染が、今後問題になるといわれている。機械工場の我が国の中小の事業所数から考えても、機械油汚染地盤の浄化需要は非常に大規模である。しかしながら、土に対する付着性・粘性が高く、揮発性に乏しい機械油を、非掘削で地盤内から除去する有効な技術は、現在までのところ確立されていない。図-1のように、揚水によって油を回収する工事がよく実施されている。確かに、初期には井戸付近の機械油がある程度回収されるが、そののち一定の距離より遠い場所の機械油を回収しようとしても地下水をくみ上げるばかりになってしまう。
 これに対し、大同工業大学・棚橋研究室では様々な非掘削での油汚染地盤のアイデアをあれこれと発案し、2000年から2008年にかけて多くの室内実験を実施してきた。ここではそれらアイデアの成功と失敗の原因と、そこから学んだ知見について報告する。

図-1 揚水による回収の問題点

2.これまでに実験した油汚染地盤の浄化アイデアあれこれ(2000年から2008年まで)

1) 2000年のアイデア 
●超音波で土粒子に付着した油を取り除く実験
 この時点では、まだ現場全体のイメージも持たず、有効な浄化手段も発想できなかったので、当時在職中の桑山教授の超音波発振機をお借りして、「メガネ洗浄機」のようにして油汚染土を洗浄する実験をしてみた。その結果、試料の条件により大きな差があることが判明した。例えば砂などの粒径の細かい土の場合は、超音波による土の締め固め効果でむしろ油が間隙にトラップして移動しなくなることがわかった。また、地盤内では超音波の効果が数メートル先までも届かないことも判明し、超音波の実験は2000年度で中止した。
2) 2001年のアイデア 
●揚水による動水勾配のある地下水に、家庭用洗剤を加え、油を井戸へ流す実験
 この時点では、着色したサラダ油を模擬機械油として実験を行った。サラダ油と混合した砂をビーカーにいれ、家庭用の洗剤で攪拌して洗ったところ簡単にきれいになった。そこでいささか無謀ではあったが、3次元大型土槽で数トンの汚染土を使って数日間上記の実験を行った。結果は失敗で回収井戸に油膜すら導かれてこなかった。ビーカーのように油汚染土と界面活性剤を攪拌混合することができないことが、地中では想像以上に大きなハンデになること、比表面積の大きな土粒子に付着した油は界面活性剤の水溶液に接触するだけでは浄化されないことを思い知らされた。この大失敗こそが、棚橋研究室の現在に至るまで浄化法開発の原点となった。

図2002-1 3次元大型土槽内の概要

 


写真2003-1 空気の圧入により浮上した油

3) 2002年のアイデア
●汚染地盤を剥離性の界面活性剤づけにし、下からの圧入空気の流れで油を浮かせる実験
 サラダ油で汚染した土を剥離性の界面活性剤づけにし、下からの圧入空気の流れで攪拌を行いつつ地表面上の液面まで油を浮かせる実験を行った。実験の過程を図2002-1に、油が浮上した状況を写真2002-1に示した。ただ空気の通りにくい部分に浄化ムラができること、現場で地表に油を浮かせることの可否などが問題として残った。

4) 2003年のアイデア
●酢と重曹の地中での発泡作用により、乳化性の界面活性剤と油の混合を促進する実験
 「浄化ムラを作らない」「油を地上に出さない」方法として、界面活性化剤と重曹の混合液を汚染試料を包むようにしみ込ませ、これに酢を注入して重曹との反応による発泡を地中で起こすことによる攪拌と、水すすぎによるウェルポイント回収を発案した。写真2003-1が発泡の様子である。しかし実験規模が大きくなると、図2003-1のように反応の終了した発泡反応帯がその後の反応を阻害し、全面的な攪乱に至らないことが判明し、この方法は断念した。なお2003年からサラダ油に代えてエンジン油の使用を開始している。


写真2003-1 酢と重曹による発泡状況

図2003-1 最初は発泡するが連鎖的には続かない

5) 2004年のアイデア
●界面活性剤をはじめからクリーミーな泡として用い、浄化力を向上させつつ使用量を減量する実験。前年に行った全面発泡攪拌を、はじめからクリーミーな泡状にした界面活性剤を浸透せることで汚染除去ができないかと考えた。最初は白砂利(粒径3.0~5.0mm)をエンジンオイルで汚染した試料を用い、泡を注入する、あるいはかけ流すだけで浄化してしまうことに成功した(写真2004-1, 2004-2)。しかし汚染地盤の土の粒径がさらに小さくなると、泡が間隙中に入ってゆく際にすぐに液化してしまい、まったく効果がないことが判明した。その他、マイクロバブル水や、コロイド洗剤を使用する実験を行ったが効果はなかった。


写真2004-1 泡状界面活性剤圧入の様子

 


写真2004-2 泡状界面活性剤圧入のかけ流し

●これまでにない薄さに希釈した界面活性剤に炭酸水素ナトリウム(重曹)を加えた浄化実験。
 これまでの界面活性剤と油の攪拌混合を行う発想をやめ、ゆっくりと漬け置く実験を行った。写真2004-3は、濃度5%まで希釈した乳化性の界面活性剤に炭酸水素ナトリウム(重曹)を加えた水溶液を、粒径0.1-0.4mmのエンジンオイルで汚染されたガラスビーズの下から3日間かけてゆっくりと漬け置き浸透させた結果である。これまでの実験では濃度5%まで希釈すると乳化がほとんど起きなかったが、重曹を添加するとこれがアシストされることが見出された。この液体を用いて3次元大型土槽実験を行った結果、望ましい浄化が実現できた。これにより、界面活性剤をもちいた非掘削浄化のめどを立てることができた。

写真2004-3 界面活性剤による浄化実験

6) 2005年のアイデア
●オレンジ成分(リモネン)乳化液に食塩を配合してみると洗浄力が増すことを発見した。
 2005年度は、洗浄液をこれまでの合成洗剤から天然素材のものに代替する試みを行なうことにした。複数の市販の天然素材の洗浄剤を用いて,予備実験を行ったうえで,オレンジ洗浄剤(オレンジの皮に含まれるオイルを主成分とする洗浄剤)がもっとも洗浄力が大きかった。さらに試行錯誤を行っているうちに偶然,食塩を原液に混入したところ飛躍的に洗浄力が向上することを確認した。写真2005-1のAが食塩添加、Bは無添加の場合であり、その差は一目瞭然である。さらにリモネン乳化液を土中で使用した場合の油の乳化状態を保持する実験を行ったが、回収部分まで移動する時に土中の水と接触すると乳化した汚染油が原液の状態に戻るという問題があることが判明した。  


写真2005-1 オレンジ洗浄剤に食塩を加えた効果

 


写真2006-1 エンジンオイルをサラダ油で押し流す実験
「無害オイルによる汚染オイルのオイルフェンス」

7) 2006年のアイデア
●エンジンオイルのような鉱物油が、サラダ油などの植物油と混ざることを偶然に発見。地盤内では同じ流体フェーズ(相)となり、植物油で押流すことができるのではないかという浄化実験。
 写真2006-1のように、砂利を充てんした土槽で、地下水面上にあるエンジンオイルをサラダ油で押し流す実験を行った。3枚目の写真は上から油を投与してから約45分後の様子である。サラダ油とエンジンオイルが溶け合い同じフェーズとなり、水面上を押し流されて左の丸い容器に排出されていくことによりきれいになっていく様子が見て取れる。4枚目の写真では、地下水面上に少しサラダ油が残っているだけであり、地下水を汚染することなく、エンジンオイルを回収することに成功した。この技術は、「無害オイルによる汚染オイルのオイルフェンス」として、あたかも矢板のように汚染現場の最外周部に施工することで汚染の拡大を防ぎつつ浄化ができるのではないかと考えられた。
●サラダ油などの植物油で地中内容器を作り、この中の汚染油を界面活性剤で浄化する実験。
上記のオイルフェンスという発想を活用し、汚染ゾーンの周りに凹型にサラダ油を注入して、あたかも地中にサラダ油の容器を作成し、その容器に界面活性剤を注ぎ込んで汚染の下から吸引回収する実験を行った。実験は成功したが、地盤内に立方体の容器を作る手間を考えると実現性に乏しい。
8) 2007年のアイデア
●使用済みのてんぷら油を圧入し浄化の時間短縮を試みた実験
 2007年度からはリサイクルのことも意識し、植物油に代えて使用済みのてんぷら油を使用して研究を行った。ここで問題になったのはやはり機械油に対する浸透性の悪さである。この問題を解決するために、地中に埋設した複数のノズルから天ぷら油を圧入して機械油を部分貫入井戸まで押し出すための実験、水位勾配のある場に天ぷら油を流す実験、天ぷら油にリモネンを混合した場合の効果に関する実験などを行ったが、それぞれに難点がありよい成果は得られなかった。

9) 2008年12月7日のアイデア
●使用済み天ぷら油と界面活性剤で油を挟み撃ちにして流す併用法の浄化実験
 そこで,図2008-1に示す植物油と界面活性剤の併用法を考案した.まず,上方より植物油を投与する.その後,地下水面下より界面活性剤を流すことで,植物油の下面の機械油を乳化させて井戸まで運ぶのである.この方法のポイントは,植物油の先行投入により空気~水の毛管上昇帯が存在しなくなるため,従来問題であった乳化液の吸い上がりがないことである.この方法について,小型卓上2次元土槽で簡易的に実験を行った結果が写真2008-1である.粒径1.0mmのガラスビーズを充填した土槽の下から3分の1をエンジンオイルで汚染した初期状態に,上方から植物油を先行投与し,土槽の左下端から生分解性の界面活性剤を送液した.写真2008-1は実験開始から1時間後の様子である.簡易実験であるので,厳密な考察はできないものの,図2008-1に近い浄化の進行状況が確認でき,順調に実験は終了した.しかし天ぷら油が横に進む速度に限界があり、実際に使用するには問題を残した。


図2008-1 植物油と界面活性剤を併用した浄化法

 


写真2008-1 上図の浄化法の土槽実験

●地盤改良薬液注入剤で汚染部分以外を固化し、効率よく油を吸引回収する浄化実験。
 2008年度から汚染の区域外流出を防止する技術の検討も開始した。ある会社のご厚意により地盤改良薬液注入剤としてよく用いられる水ガラスと硬化剤を提供していただき、これを用いて図2008-2のように汚染部分以外を固化してしまえば,界面活性剤で効率よく油を吸引回収することができるのではというアイデアが浮かんだ。実験の結果、浄化範囲が限定されたことで浄化効率は著しく上昇したが、固化部分に生じた亀裂に乳化した機械油が吸い上げられてしまうことが判明し、問題の解決には至らなかった。


図2008-2 地盤改良薬液注入を併用するアイデア

3.現時点でのもっとも実用的な浄化のアイデアは

 ここまでの実験で、天ぷら油・リモネン・泡といった方法と比較して、やはり界面活性剤水溶液を浸透させて回収するのが良いという結論に至った。また、界面活性剤水溶液の使い方によってどのような失敗が起こるかも分かってきた。これを図2008-3にまとめた。

図2008-3 界面活性剤を用いた浄化法での失敗とその原因

 


写真2008-2 毛管上昇ウェルポイント法の実験

 これに対し、現時点で最も実用的であると思われるのが、写真2008-2の方法、「毛管上昇ウェルポイント」である。これは乳化油の吸いあがり特性をむしろ利用して、毛管帯中でウェルポイント回収を行うことで回収を促進するアイデアである。この方法では飽和帯に浸透した界面活性剤が油を下から乳化させるとともに、上方から比較的少量の界面活性剤を散布することで効率よく回収ができることが実験から確認できた。この回収方法は既存の土壌ガス吸引や真空圧密工法での表面被覆による吸引効率アップのノウハウの応用も期待される。現在、棚橋研究室はこの「毛管上昇ウェルポイント」に関する実験を推進中である。

参考文献

1) Kenji Daito, Hideyuki Tanahashi, and Shuji Miyazawa :Development of in-situ non-excavating purification technique for oil polluted ground using surfactants.  シンポジウム・日本とEU諸国における油汚染の現状と対策2005,pp.129-137,2005.
2) 梶田真一・棚橋秀行・大東憲二:油汚染地盤の原位置非掘削浄化技術に関する基礎実験、第50回地盤工学シンポジウム 平成17年度論文集 pp.49~56.2005.
3)河合輝也・亀井大・川口博史・棚橋秀行:植物性油を用いた機械油汚染地盤の浄化技術第43回地盤工学研究発表会講演集, pp.2103~2104, 2008.
4)棚橋秀行・大東憲二:機械油汚染地盤の浄化技術開発に関する室内土槽実験、第20回中部地盤工学シンポジウム論文集,pp.49~56,2008.