元飛島建設株式会社 石合伸幸
執筆:2020年6月
1.はじめに
栃木県宇都宮市北西部の大谷町を中心に、東西4km、南北6kmに渡って地下採石場跡の巨大な空洞が分布している。そのため、この地域では過去に空洞の崩壊で地表が陥没する事故が発生していた。特に、平成元年(1989年)に発生した陥没事故は規模が大きく、採石業者の撤退や観光客の減少を招き、社会問題になった。
本工事は大規模な空洞の対象範囲を確実にまた効率よく充填することを目標に、限定充填工法の隔壁の勾配を従来より急な勾配とする工法を開発し、適用した最初の充填工事である。開発に当たり、材料および充填材の室内試験、小規模打設試験、フィールド試験を行った。なお、従来の限定充填工法では水ガラスを添加した端部充填材で1:5程度の勾配の隔壁とする。ここではこれを「緩勾配タイプ」と呼ぶ。これに対し、急勾配の隔壁とする限定充填工法を「急勾配タイプ」と呼ぶ。急勾配タイプでは、充填材の水和反応を速めて凝結時間を著しく短くするために吹き付けコンクリート用の急結剤を添加する。
2.工事概要
工事名:道路保全工事(地下空洞充填)
工事場所:栃木県宇都宮市(大谷地区)
発注者:宇都宮市
施工者:飛島建設株式会社
工 期:平成17年12月2日~平成18年3月24日
施工内容:端部充填材507m3、中詰充填材190 m3、計697 m3
当該工事は既設道路直下の空洞を対象にした充填工事で、ここでの空洞高さは約3m程度と大谷採石場跡としては小規模な空洞の部類である。しかし、この位置の空洞底面は傾斜し、さらにその先には深い空洞があった。また比較的浅いことから地下水の浸入もない箇所であった。そのため、緩勾配タイプの端部充填材では対象範囲外に大量流出してしまう可能性があった。
3.事前試験
フィールド試験に先だち、表1に示す端部充填材の配合案について室内試験と小規模打設試験を行って流動特性を測定し、配合について検討した。表2に室内試験の結果を示す。ここに、急結材は水に溶解でき、また凝結時間の早いスラリー急結剤(水と混合して添加する粉体急結剤)を選定した。
フィールド試験では、空洞の高さを3m以上で水がない状況を想定し、1:2.5の勾配を確保することを目標とした。フィールド試験のうち形状測定試験(図1)では、実際の充填工事の1/2スケールを想定し、1.5mの高さまで端部充填材を打設して勾配等の形状を測定した。形状測定試験の結果、配合1、配合2の側面勾配は、それぞれ1:1.8、1:2.3程度となり両配合とも目標の1:2.5を満足したが、このなかからより勾配が急な配合1に決定した。なお、充填材の必要強度は100kN/m2である。
表1 急勾配タイプ端部充填材の配合案

表2 端部充填材のフロー値と反応時間(室内試験)


図1 形状試験状況(配合NO.1)
4.充填設備
充填に用いる材料の製造は、仮設用地が狭く機械設備を簡略化する必要があったため、以下の方法を採用した。
①溶解工程を省略するため脱水ケーキに代わり、砕石工場から濃度を調整したスラッジをミキサー車5台(4m3×18車/日)で運搬した。
②セメントは近隣の生コン工場から特殊土用固化材によるミルクを製造し運搬した。
③急結材は現場内のグラウトミキサーにより材料を適量混合してスラリーを製造した。
④調整泥水+セメントミルク(A液)と急結材スラリー(B液)を、スタティックミキサーで混合し、端部充填を行った。なお、従来の配合に比べ反応時間が遅いため、スタティックミキサー以降の配管の長さで反応時間を確保した。図2に充填設備フローを示す。

図2 充填設備フロー
5.充填状況モニタリング
充填工事では、充填材流量管理のためにA・B配管に流量計を取り付け、空洞内に挿入した空洞カメラで充填材の流動状況をモニタリングしながら施工した(図3)。また充填後の形状はレーザー測距により断面測量を行った。図4に、測量結果をもとに描いた充填完了状況を示す。また、表3に隔壁勾配の測定結果を示す。
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図3 端部充填状況(空洞カメラ撮影)

図4 充填完了想定図(道路横断面図)
表3 隔壁勾配の測定結果(実工事)

6.おわりに
従来の端部充填の考え方や設備構成を発展的に利用しながら、室内試験、小規模打設試験、フィールド試験を経て、急勾配隔壁と背後の中詰充填を施工し、所定の成果を挙げることができた。実工事での勾配の測定結果より隔壁勾配の平均は1:2.8であった。
これまでに得られた知見は以下の通りである。
①配合1m3あたり急結剤は20~25kg程度で隔壁の勾配はおおむね1:3となり、空洞天盤の高さでの充填材の到達半径は2mを確保できる。
②急激に流動性が低下するため、反応時間の調整が重要である。
③低温状態では反応時間が長くなる傾向にあり、温度により添加量の調整が必要である。
なお、急結剤を添加した端部充填材の材料費は従来とほぼ同等で、端部充填材の数量が少ない分、安価かつ工期の短縮になる。
本試験と工事の成果によって、目的に応じて2種類の端部充填材による隔壁が形成できることが実証された。表4に今後限定充填工法を採用する際の2種類の端部充填材を使い分ける目安となる標準性能を示す。今後、性能および施工性の改良を行なうことで、より安定した施工が可能になると思われる。また、限定充填工法は亜炭廃坑の充填のみならず大谷石採石場跡のような大規模空洞にも十分対応できる技術として、その適用範囲が広がると考えられる。
表4 限定充填工法端部充填材の標準性能

出典
一般社団法人充填技術協会:-特別記念誌-地下空洞充填事業の調査・施工研究史,pp.130-131,2020.