飛島建設株式会社 宮沢義博
執筆:2016年6月
1.はじめに
岐阜県内における旧亜炭採掘区域において亜炭鉱跡に起因する陥没被害が近年、大規模化・多発化している。陥没被害発生時には特定鉱害復旧事業等基金を活用して事後的に復旧工事を行っているが、同基金は事前の予防的な防災工事には活用できない。そのような状況のなかで、将来想定される南海トラフ巨大地震により、亜炭鉱跡の大規模崩壊等による被害が生じる恐れがあることから、予防対策が急務とされ、平成25年度(2013年度)の国補正予算にて措置された「南海トラフ巨大地震亜炭鉱跡防災モデル事業」により、初めて予防的な防災工事が認められた。本工事はその事業の一環として施工した最初の充填工事である。
2.工事概要
工事名:平成26年度南海トラフ巨大地震亜炭鉱跡防災モデル事業第1期防災工事
発注者:御嵩町
施工者:飛島・天野特定建設工事共同企業体
工 期:平成26年9月26日~平成27年10月30日
施工対象面積:22,700m2
充填量(設計):端部充填材9,937m3、中詰充填材16,770 m3、合計26,707 m3
充填孔(設計):137本
充填対象箇所は、災害時に災害対策本部となる町役場および主要避難所である御嵩小学校、向陽中学校で、震度6弱の地震により直ちに陥没するほど地盤のぜい弱性が高い地区である。充填範囲は5ブロックに分かれており第2亜炭層の空洞を対象とした御嵩小学校グラウンド(第1工区)、向陽中学校グラウンド(第2工区)、第3亜炭層の空洞を対象とした向陽中学校テニスコート(第3工区)、御嵩町役場(第4工区)、向陽中学校駐車場(第5工区)である。地盤ぜい弱性調査で行われたボーリング調査と過去の同地区のボーリング調査結果によれば第2亜炭層で空洞深さは6m~16m、亜炭採掘高さは平均2.3mで、このうち下部には採掘当時に坑内に残されたぼたや天盤崩落土などと思われる土砂が平均1.5mの厚さに堆積し、その上には平均0.8mの高さの完全な空洞があった。第3亜炭層は、空洞深さは9m~22m、亜炭採掘高さは平均1.3m、堆積土砂は平均0.2m、完全空洞は平均1.1mであった。また、空洞内部は地下水の流入により満水の状態であった。図1に計画時の充填孔配置平面図を示す。各充填孔の配置は、これまでの試験施工や施工実績から、端部充填孔を8m間隔、中詰充填孔を20m間隔とした。ただし中詰充填孔については構造物に近接する箇所では充填圧力により構造物に影響を及ぼす恐れがあるため充填孔間隔を10mとした。空洞は北東から南西方向に向かって傾斜し、南西側の境界線を越えて広がっていることから、傾斜下部側には端部充填材による隔壁を設け充填材の流出防止を行った。表1および表2にそれぞれ充填材の品質目標値と配合を示す。

図1 充填孔配置(計画)
表1 充填材の品質目標値

表2 充填材の配合

3.施工方法
充填孔の設置では、φ116mmのロータリー式マシン、φ165mmのロータリーパーカッション式マシンでボーリングを行い、φ116mmケーシングはそのまま保孔管として使用し、φ165mmにはφ100mmの塩化ビニル管を保孔管として設置する方法とした。端部充填材はゲル化直後に空洞内に送るために、脱水ケーキ、水ガラス、水を練り混ぜたスラリー(A液)と、セメントミルク(B液)を別々の配管で充填孔の位置まで圧送し、両液をスタティックミキサーで連続的にミキシングし、空洞内に注入した。充填中は充填感知センサーを周囲の未充填の充填孔に挿入して、空洞内に注入した充填材の到達状況を確認した(図2)。また26箇所で確認ボーリングを行って充填材のコアを採取し、いずれの箇所においても空洞天盤に隙間がないこと、およびコアの一軸圧縮試験から目標強度を満足していることを確認した(図3)。

図2 充填状況(右:充填孔、左:充填感知センサー挿入
、手前:スタティックミキサー)

図3 確認ボーリング充填材コア採取
空洞内は地下水の流入により満水の状態であり、充填材の注入による地下水への影響を把握するために、近隣の既設井戸、河川および充填範囲近傍に観測井戸を設け水質モニタリングを実施した。充填前後で晴天時・雨天時の2回、水道法9項目+六価クロムの調査を実施。充填中は毎日、水位、水質の観測を実施。調査の結果、充填作業を原因とする水質等の変化は見られず、充填施工に伴う影響は見られなかった。
充填材を空洞内に注入する際、圧力をかけることで空洞内を均質に、また遠方まで充填することができる。ただしこの圧力が過大であると地盤隆起を誘発することがあり、そこに構造物があると傾斜するなどの変状が表れることから、通常は空洞上の地盤の重量を考慮して注入圧力の管理値を設定し、管理する。また影響が想定される構造物には傾斜計を設置し、動態を監視しながら施工する。本工事は町役場や教育施設等の重要施設近傍で施工を行うため、圧力管理と計測管理に留意して施工した。その結果、これらの施設には影響を与えることはなく無事施工を完了できた。
4.おわりに
最終的な充填量は、次の通りとなった。充填量:端部充填材5,779 m3、中詰充填材8,100 m3、合計13,879m3。当初設計に比べ充填量は約52%となったが、充填孔設置工ボーリング結果を反映した計画充填量に対して端部充填は上回った。中詰充填は計画程度の充填となった。設計に対して充填量が下回った原因としては、充填範囲の減少、堆積物が当初設計より厚く、全体として平均空洞高が小さくなっていること等が考えられる。
本工事における成果をまとめると、以下のようになる。端部充填材で対象範囲の外側空洞への充填材の流出ロスを防止でき、また高い流動性の中詰充填材で空洞内に存在する残柱や壁、さらに空洞水や土砂が堆積する複雑な空洞も均質に埋め戻すことができた。限定充填工法は巨大地震による空洞の崩壊を防ぐ手段として有効であると考えられる。
出典
宮沢義博,杉浦乾郎,坂本昭夫,和田幸二郎:空洞充填工法による亜炭鉱跡の巨大地震対策,地盤工学会中部支部 第25回調査・設計・施工技術報告会,2016.